11月9日、弘大医学部4年生に「診療所における医療安全」と題して90分の講義をしました。 ここに内容は書きませんが、講義のために調べたことで改めてこんなことだったんだと気がついたことを少し書きます。

平成11年に横浜市立大学附属病院で心臓病と肺の病気の患者さんが取り違えられて手術され、 術後にICUで体重が違うために気づかれたという医療事故がありました。 この事件を契機に、新聞で報道された医療事故が、平成10年が221件だったのが、平成12年には1606件と急増しました。 これは、医療事故が急増したのではなく、それまで表面に出ていなかった医療事故が顕在化しただけのことでした。

この医療事故の後、いわゆるヒヤリハット報告を基礎にして大病院で医療安全が本格化しました。 そして、沢田内科医院のような入院ベッドがある医院も、大病院と同じような医療安全対策が要求されていました。 しかし、大病院を想定した医療安全が小さな医院の実状に合うわけがありません。 その上、平成19年からはベッドがない医院と歯科医院にも医療安全が義務化されました。 この時期は、血糖測定装置の使い回し事件、診療所で点滴の作り置き事件、眼科手術での多数の感染事故、 などが小さな診療所で起こった時期と重なっています。

ここに驚くべき数字があります。日本でのある日1日に外来受診する患者さんの数は680万人です。 歯科医院も含めていますが、その75%である510万人が診療所を受診しているのです。 診療所を受診する患者さんは病院に比べると軽い病気の人が多いとは思いますが、 それにしても通院患者さんの75%が診療所を受診するのですから、その場所に医療安全が義務づけられるのは納得がいきます。

ちなみに、日本では入院患者さんが140万人います。青森県の人口が136万人ですから、県全体の人が入院しているようなものなんですね。 これまで軽く聞き流していましたが、今回、講義のために調べてみて改めて驚きでした。

沢田内科医院ではスリッパは約150足用意しています。1回使ったスリッパはきれいに拭いています。 待合室の椅子は一人ずつ座るもので、たとえ待室で転んだとしてもケガをしないような材質のものを使っています。 血管注射や採血の時は、リクライニングの椅子に座らせています。点滴のベッドは、看護師がすべての患者さんを観察しやすいように配置しています。 点滴室などと別の部屋で行っている病院もありますが、少ない職員ですので、プライバシーよりも安全を優先して仕切っています。

医療事故にはならなかったが、場合によっては事故に結びつくような間違いをヒヤリハットと言います。 医師会では今年の4月からヒヤリハットを月ごとにまとめて報告するように求めています。 沢田内科医院ではそれに合わせてヒヤリハットの収集を始めました。 薬の間違いに関しては、これまでもノートに書いて報告するようにしていましたが、外来や検査などすべての間違いを記録に残すことにしました。

弘大医療安全室の福井康三准教授の話では、弘大のヒヤリハット事例と私の医院での内容はほとんど同じだとのことでした。 医療機関の規模には関係なく同じように医療安全対策が求められるのはこのことからも分かります。 そして、間違いを少なくするためには、表面に現れた間違いを繰り返し繰り返し確認していくことしかないようです。