医療保険福祉審議会委員の鴇田忠彦一橋大学教授の意見が「週刊東洋経済(2001.12/30-1/6合併号)」に掲載されている。この中で、保険者(組合健保や共済、市町村国保)の機能強化について触れている。保険者が患者に代わって医療機関の質や効率の情報を集め、患者の医療機関選択に役立てるようにする。同時に、保険者が医療機関と直接、診療報酬の交渉をする。この二点が保険者機能強化の大きな柱であるという。また、老人医療と末期医療に関しても言及している。

例えば、A組合健保には過去の膨大な数のレセプトデータが蓄積されているので、そのデータを解析すれば胃癌のステージ2の患者の5年生存率はB病院は何%で高く、C病院は低いという情報が得られるはずだという。そして教授の研究室で解析中とのことです。

また、国民皆保険になった段階で、診療報酬は実質的に全国一律とされてきた。しかし、診療報酬は上限価格と解釈可能なため、保険者が医療機関に対して診療報酬の割引交渉が出来るようになるという。かつて、ある企業が医療機関と診療報酬交渉をしようとした際、厚生省が行政指導で止めさせたことがあるが、現在、厚生省はこうした行政指導はしないと明言しているという。

次に、今後70歳以上の人口が急増し、自己負担1割では制度維持が困難なので、政府が「段階的に自己負担2割にしていく。そうすれば老人保険制度は持続可能になる」などと明言して実行すべきだと主張している。自己負担2割にすると高齢者の受診抑制が起こり、高齢者医療費を抑制する効果が大きいのは1997年の制度改正時に受診が減少したことで確かめられているという。

医療保険福祉審議会の委員をしている教授ですので、制度には精通しているのでしょうが、私には疑問に思う点があります。レセプトには胃癌という病名、行った検査、使用した薬剤は記載されますが病気の進行度は記載されませんので、胃癌のステージ分類あるいは進行度は読みとれないと私は思います。それに、胃癌の場合にはあり得ませんが「レセプト病名」という現実があります。つまり、ある薬剤を使用する場合に、保険医療として行う場合に実際の病気とは異なる病名をレセプトに記載することがあることです。このようなことからレセプトで病院の質や効率を判定することは不可能だと私は考えます。

老人医療費を抑制することは、日本の医療費が諸外国に比べて貧弱である現時点では私は反対です。ただ、現実問題として、財政的な裏付けがなければ医療制度を維持することが出来ないのは私にも分かります。医療の質と効率を考えることは重要ですが、財政的な考え方が先行して議論が進められ、国民の健康に関することが切り捨てられるのは幸福に結びつくのだろうか。