日本では毎年約620万人が献血しています。 詳しく見ると、680万人が献血の申し込みをして、620万人が献血をしています。 100万人が貧血などのため献血ができません。 世界的に見ると献血率は非常に高く、輸血が必要な人は大変助かっています。 特に私は血液疾患を専門にしてきましたので、輸血のお陰で助かった人は数知れません。

皆さんが献血すると、血液センターでは、貧血や肝機能はもちろんですが、 B型肝炎、C型肝炎、エイズ(HIV-I, II)、成人T細胞白血病(HTLV-I)、 ヒトバルボウイルスなどのウイルス検査を行います。 ウイルスの検査は精度が高くなってきていますが、感染後しばらくは検査で検出できない期間があります。 この期間はウインドウ・ピリオドと言われています。 B型肝炎は約60日、C型肝炎は約80日、エイズウイルスは約20日です。 つまり、献血した人が感染してから、これらの期間内であれば、検査では分からないわけです。 この期間を短くしようとしたのが、核酸増幅検査(NAT)と言われている検査法です。 ウイルスの核酸(DNAまたはRNA)の一部を100万倍以上に増幅してウイルスを検出するため、非常に精度が高くなっています。 しかし、この方法でも、ウインドウ・ピリオドはB型肝炎は約30日、C型肝炎は約20日、エイズウイルスは約10日にしか短縮できません。

この献血をして下さる方の中に、検査目的で献血する人が少なからずいます。 献血の動機がエイズウイルスなどに感染していないか検査目的であればあるほど 「ウインドウ・ピリオド」に該当している可能性が高くなることになります。 献血する人は、輸血を受ける患者さんのことはあまり意識していないのが普通で、 まして自分の献血した血液によって誰かが死の危険にさらされることは想像していないでしょう。 先日も、検査をすり抜けたエイズウイルス陽性、肝炎ウイルス陽性の血液が輸血に使われました。 医療を行う側としては、輸血用血液は必ずしも安全ではないことを前提に、 病気と輸血のよる危険を天秤にかけて輸血を行っているのが実状です。

貧血と肝機能検査結果は献血をした人全員に通知されます。 ウイルスと梅毒に関しては異常がある場合、希望者に検査結果をお知らせしています。 これを自分の健康管理に利用することは大変よいことです。 しかし、自分がウイルスに感染していないかどうかの検査を目的とした献血はやめましょう。 ちなみに、献血した人にエイズウイルスの結果は通知されません。