「相馬のんき」さんという方をご存知でしょうか。面白い特徴のある字を書く人です。

「相馬のんき」さん

先日、鯵ヶ沢で相馬さんの個展が開かれていましたので、見に行ってきました。 なかなか味のある字で、内容がまた味わい深いものがありました。 「津軽で一番字が下手な人」と紹介されたことがあるそうです。

個展では、色紙にいろいろなことが書かれていました。 その中で、「忙しいのもよいけれど、心を亡くしちゃいけないよ」という色紙が目に入りました。 日常、仕事として医療を行っていて、忙しいと、つい仕事を片付けるという意識になりがちです。 私たちにとっては、病気の人たちの治療にあたるということは、いわゆる日常茶飯事です。 でも患者さんにとっては、日常ではありません。忙しくなると、この患者さんとの意識の差が大きくなります。 ですから、忙しい時でも、心をなくしないようにして仕事をすることが大事だと思っています。

「忙しいのもよいけれど、心を亡くしちゃいけないよ」というのは、まさに、 それをズバリ言い当てた色紙だったのです。 医院に掲げて、毎日心に刻み込むようにしようと、相馬さんに書いてもらうことにしました。 せっかく書いてもらうのですから、紙ではなく、杉の木にすることにし、 大鰐町に行き、「わにもっこ」の山内将才さんに選んでもらいました。

よそ行きの顔をして、緊張気味の清野法子です。

表面を処理した杉の板を持って、つがる市森田町の相馬さんの自宅兼仕事場に会いに行ってきました。 いろいろな話をして、長居をしてしまいましたが、「忙しい」についても教えてもらいました。 「忙しい」の「忙」の偏は、立心偏です。心を表します。 つまり、忙しいというのは、心を亡くすということなのです。 「心を亡くしちゃ」というのに、違和感を感じたので、相馬さんに、なぜ、「無くしちゃ」ではなく、 「亡くしちゃ」なのか尋ねたところ、このように説明をしてくれました。なるほどと納得しました。

でも、疑問も出てきました。「忘れる」も「心」を「亡くする」と書きます。 心を横に書くと「忙しい」で、心を下にすると「忘れる」になります。 何か訳でもあるのかと、気にかかりました。 幸い、医院の近くの西茂森に私の高校時代の恩師、内海康也先生が住んでいます。 内海先生は、日本現代詩人会の第20回「現代詩人賞」選考委員という中央詩壇で現在も活躍し、 多数の詩集を発表している詩人です。

早速、内海先生に電話してみました。「忙しさは、せわしさ、あわただしさを表し、 忘れるも、心をなくし・・・・・・。 結局、横に来ても下に来ても、似たようなもの・・・・。」とのことでした。 今は、日本語と津軽弁に人一倍の興味を持っている私ですが、電話で先生の話を聞きながら、 高校時代には国語に全く興味がなかった自分を思い出してしまいました。

相馬さんは色紙を書く他に、テレビ番組の題字、お酒のラベルなどを書いています。 また、茂森町成豊酒店の看板、堀越のシド亭のメニューなどで相馬さんの文字を見ることができます。 間もなく、また、忙しい冬がやって来ます。 いくら忙しくても、心を亡くしないようにして診療して行きたいと思っています。