平成16年4月から、新しく医師になった人たちの研修が義務化されます。 その2年間の研修期間の中に地域医療が必修として1ヶ月組まれています。 つまり、開業医、保健所、老人保健施設で研修することが要求されています。 この地域医療研修で、私たちも弘大の卒後臨床研修制度に協力することになりました。

わが国では、医学部を卒業すると、内科、外科、眼科など専門の科に所属し、 そこで専門医として研修している人が大部分です。 それも、内科であれば、消化器、循環器、血液など、初めから狭い領域での研修となりますので、 全体を診る訓練が欠けていると言われています。 新しい研修制度では、内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、救急、地域医療研修が義務とされています。 この2年間の研修が終わった後に、それぞれ希望する分野での専門研修を受けることになります。

私もそうでしたが、医学生や若い医師は、開業医がどのような医療をしているかを漠然としか知らないのが実情です。 最先端の医療から取り残され、病院での医療よりもレベルが低いというのが、一般的な印象ではないかと思います。 一方、開業医で治療されている患者さんの方が大きな病院で治療されている患者さんよりも数が多いことも事実です。 ですから、開業医でどのような治療がなされているのか、どのような医療を要求されているのかを知ることは非常に大事なことです。 1ヶ月と短い期間ですが、若い時に開業医での診療を体験することは、 その後の医療を考える上で大きな影響を与えるのではないかと私は思います。

新しい臨床研修制度が始まるのが来年からですが、この制度を前倒しして、この10月から研修医が私たちの医院に1人来ます。 確立したプログラムがないために、手探り状態ですが、研修医を実際に引き受けることで、 少しずつ良いものを作って行こうと思っています。

医師は、患者さんを診ることで成長していきます。教科書に書いてあることを、実際の患者さんで体験することで、 診療技術が身につきます。 患者さんは一人ひとりが違います。同じ病気でも一人ひとり微妙に違います。 私は1年間に800人から900人の胃内視鏡検査を行い、胃潰瘍や胃癌の診断をしていますので、 開業後でも約6,000人の胃の中を見ていることになります。でも、全く同じ胃だと思ったことは一度もありません。 胃癌にしてもそうです。内視鏡を覗きながら、全く同じ形をした胃癌だと思ったことは一度もありません。 ありふれた病気でも、患者さんを診ながら医師は毎日経験を重ね、自分の勉強をして成長しているのです。

医師を育てるのは、患者さんの皆さんです。医師も自分の興味のために研修をするのではなく、 患者さんのために研修をするのだと私は思っています。研修医は学生ではなく、医師国家試験に合格した医師です。 当然、医療行為は許されています。研修医にとって私たちの医院での研修が有意義なものになるように、ご協力お願いいたします。