4月から後期高齢者医療制度が始まりました。新聞ではいろいろなことが騒がれていますが、現実の医院の外来ではこれまでと何ら変わったことがなく日常が過ぎて行きます。しかし、3月までと比べてみると、これまでと同じことをしていても収入は減少し、非常に厳しい医院の運営を迫られています。

大きな病院ではどうでしょうか。医師不足のため、産婦人科や小児科かだけでなく、内科さえも診療を縮小せざるを得ない状況に陥っています。さらに、公立病院の財政状況は非常に厳しいものがあり、一部では第2の夕張になるのではないかと指摘されている市や町があります。

大部分の公立病院が患者さんを診療して赤字になるのは異常ではないでしょうか。人件費比率が高いからだとか、医療機器に過剰投資しているからなどとも言われます。青森県内の公立病院を見ても分かりますが、黒字で経営している病院はほんの数えるほどです。赤字経営は異常で、運営の仕方が悪いと考えるにはあまりに多い数です。これは病院の経営に問題があるのではなく、医療費が低く抑えられているからと考えるしかありません。つまり、医療にかかる諸経費が、国の決めた診療報酬で賄えないことを示しています。

国が医療費抑制を掲げ始めたのは八十年代の行財政改革だと思います。国の財政削減の方針がそのまま医療政策に安易に適用され、国民生活の基本である医療を市場原理に任せようとしたことは間違いです。特に小泉政権以降、社会保障費の上限が決められ、療養型病床の削減や診療報酬の切り下げ、そして国民の保険料値上げと窓口負担増が進みました。

日本には、国民皆保険制度という優れた制度があります。世界を見渡しても、保険証1枚あれば、どこでもどんな医療でも受けられる国はほとんどありません。大部分の人たちはこのことを実感していません。後期高齢者医療に反対という人はたくさんいますが、この優れた国民皆保険制度を守ろうとする意見を表明する人が少ないのが私には残念でなりません。時代の状況や、医療の進歩に伴う経費の増大に合わせて、医療制度のあるべき姿は常に変わって行きますが、この皆保険制度は崩すべきではありません。

私たちが国民皆保険制度の維持と、最先端の高度医療の両方を求めるのなら、国は診療報酬を上げ、先進諸国並みに国庫負担を大幅に増やさざるを得ないという結論になります。さて、その場合は財源が問題になります。医療を公共財と考えたとしても、私たち国民もそれ相応の負担をしなければ成り立ちません。労働力を得る代わりに企業が負担する、税金や保険料を通して個人が負担する、受益者負担として個人が直接負担する、いろいろなことが考えられます。いずれにせよ、個人の負担が大きくなるのは避けられないことでしょう。