院内薬局

 日本ではこれまで国策としてジェネリック医薬品を推進してきました。ジェネリック医薬品とは厚生労働省の認可を得て製造販売される新薬と同じ有効成分を含む医薬品のことです。先発薬に比べて、ジェネリック医薬品というのは安価です。薬が安く手に入るということは、患者さん側からしても自己負担が小さくなるので喜ばしいことではあるのですが、昨年は製造工程で抗真菌薬に睡眠薬が混入し多数の健康被害が出た事件がありました。幸い当院で採用している薬ではなかったのですが、これはジェネリック医薬品の信頼に関わるとても大きな出来事でした。業界では再発防止のため承認を得ている製造工程と実際の製造実態の再調査をしていて、問題があった場合は自主回収ということで世の中に出ている薬を引き上げてしまいます。何種類かの薬であればいいのですが、あまりにもその数が多いため、多くの病院、薬局に多大な影響を及ぼしています。シェアの大きな会社で自主回収になると、世の中に出回る薬の数が減ってしまいます。いつも使っていたはずの薬を注文してもなかなか入ってこないという事態が日常的に起きているのが現状です。新型コロナウイルスで世の中が大変な事態なのでニュースにならなくて目立ちませんが、いま日本の医療の現場では必要な薬が手に入らないという現実とも戦っています。

 昨年からいろいろな薬が不足する状況が断続的に続いていましたが、複数の問屋さんにお願いしながらなんとか在庫を切らさないようにしていました。今回大々的に変更を余儀なくされたのは高血圧の時に使うテルミサルタンという薬と、胃腸炎のときに使っているセレキノン(トリメブチン)という薬です。前者については患者さんと相談して他社の同種薬品に変更をお願いして対応しています。後者については全く同じ作用の薬がないので、別の薬品で代替せざるを得なくなりました。いずれも毎日必ず処方される薬でしたので、処方する側としては使いたい薬がないというのは非常にストレスフルですし、長年慣れ親しんだ薬が変わる患者さん側としても不安が大きいのではないかと推察されます。チャンピックスという禁煙のための薬も発がん性物質が入っている可能性が指摘されたため、少なくとも来年後半まで入荷の予定はないようです。せっかく禁煙しようと言ってくれる患者さんも後回しになってしまっています。

 薬の業界内のことなので我々には何もできないのですが、ジェネリック医薬品の信頼回復のためにもできるだけ早く問題を解決して、安心して使える薬を安定的に供給してもらえる状況に戻ればと強く願っています。