2年ぶりにタミフルを処方しました。タミフル(オセルタミビル)はインフルエンザの薬です。今年はインフルエンザも同時流行することが予測されていましたから、予想はそれなりに当たったことになります。ただこれを書いている1月下旬現在、発熱外来そのものの件数もかなり少なくなっており、多くても1日20件弱、その中の大部分はやはりコロナでインフルエンザはわずかです。まだまだマスクをつけて生活する人が多いため大流行には至っていないようです。ウイルスはマスクをつけていない場面でうつるわけですから、同居家族やマスクなしで接触した方の中にインフルエンザの方がいる場合はインフルエンザの検査を追加で行っています。インフルエンザには幸い、ワクチンも治療薬もありますので高齢者の中から重症者が出ないよう注意していきたいと思います。

■年末年始の発熱外来

 12月29日から1月3日まで年末年始の休業としていましたが、今回もコールセンターや急患診療所からの発熱患者さんに対応できるように午前10時から12時まで臨時で発熱外来を開設していました。一部職員には休みも返上でがんばっていただきました。8月のお盆休み期間の臨時発熱外来はものすごい数の問い合わせで大変なことになったため、年末年始もかなり警戒していましたが幸いそれほど多くなることはありませんでした。

 これはコロナの患者さんが減ったということではありません。発熱した方がすぐに医療機関を受診するのではなく、まずは市販の抗原検査をするなどの対応が定着してきたためと思われます。毎日16時30分になるとニュースでその日のコロナ陽性者数と死者数が発表されますが、国でコロナの全数把握をやめてしまったため、もはやこの陽性者の発表が感染の全体像を示さなくなってしまいました。たとえば今43歳の私が発熱して、市販の抗原検査で陽性とわかって市販薬を買って自宅療養に入ったとします。その場合、医療機関を受診してはいませんし、保健所にも届け出ていないわけですから県の感染者の発表には出ないことになります。12月以降、毎日コロナでの死者数の発表がこれまでより格段に多いことにはお気づきのことかと思いますが、ウイルスの毒性が極端に強くなったわけではないので死者数が多くなっているということは数字に出ない感染者がそれだけ多くなっていたと推測されます。

 年末にそれを裏付けるようなエピソードがありました。年末のある日、発熱外来をしているときにコロナではないのですが入院が必要な患者さんがいました。救急車で搬送するときはいつもなら看護師さんにお願いするのですが、そのときは発熱外来終了の時間だったので私が同乗して救急搬送することにしました。雪深い日だったのでかなり揺れて車酔いしそうになりましたが、それなりにスムーズに病院には到着しました。しかしなんと救急外来前に救急車が4台も待っているではありませんか!その後病院の中に搬入するまで1時間半もかかりました。その間にさらに2台、私たちの後に救急車が到着して待っていました。救急車の中で救急隊の方と少しお話をしましたが、このような状況は決して珍しいものではなく、出動件数も例年よりかなり多くなっているようです。勤務時間中もほぼずっと出動している状況で疲労もたまってきているとのことでした。救急外来の15床あるベッドは文字通りすべて埋まっており、救急の先生が次から次に入ってくる電話に対応していました。外来受付の前の椅子にもたくさんの歩いてきた患者さん達が待っており、これだけの患者さん達を診察し終わるのにどれだけ時間がかかるのだろうと想像するだけで気が遠くなりそうでした。

 新型コロナウイルスは令和5年5月からインフルエンザなどと同じ5類感染症という扱いになるようです。若い人にとってコロナはただの風邪と同じような感覚になっていくのでしょう。しかし分類を変えたからといってコロナウイルスは手加減してくれるわけではありません。前述のように自分たちの目に触れないところでたくさんの発熱患者さんが救急外来にお世話になり、持病があったり高齢になったりで体力が落ちた人達にとっては脅威であり続けます。分類が変わろうと私たちがやることはこれまでの3年間と何ら変わりません。これからも感染対策をしながら、コロナウイルスは常にいるものと思って診療を続けていかざるをえません。

■病棟でのコロナ院内感染、担当看護師も陽性に

 年末年始の発熱外来が予想よりも少なかったためホッとしたのもつかの間。年末より当院の病棟に入院していた患者さんに風邪症状があり、PCR検査をしたところコロナ陽性となりました。同時期に入院していた他の患者さんや付き添いの方も調べてみたところ、さらにもう1名の患者さんが陽性となりました。コロナの流行り始めの頃に1名、個室でコロナ肺炎の患者さんを入院させていたことがありましたが(このときは退院してから陽性と判明した)、入院でみるのは実質はじめてでした。PCR検査で陰性だった患者さんには退院していただき、陽性だった2名の患者さんを個室管理として入院制限を行いました。

 その後、コロナと判明する前に患者さんを担当していた看護師さんもコロナ陽性となり自宅療養になりました。コロナ陽性となった患者さんはトイレ付きの個室に隔離して10日間過ごしていただきましたが、幸いみんな軽症で療養期間を終えることができました。もともとの病気があって入院されている方が院内でコロナにかかるとかなり重症化のリスクが高くなります。院内でコロナが発生した際にどのように対応していくのかを再確認する貴重な機会となりました。