日本医学会総会での話題を紹介します。日本の医療の現状を正しく理解してもらう目的で、「日本の医療はどうあるべきか?」という題でパネル討議が行われました。その中から、国際的に見た日本の医療の位置づけと、日本よりも前に低医療費政策をとったイギリスの現状について、読売新聞と日医ニュースからその内容を二つ紹介します。

日本の一人当たりの医療費は世界で第7位

川崎市立病院の内科医である鈴木厚さんはWHOのデータをもとに医療の国際比較を行い、 「日本は世界最高の医療を、安い医療費で提供している」と言っています。 それにもかかわらず、日本の医療が各方面から批判を受けているのは、財務省主導の医療費抑制政策や マスコミの大衆扇動、医療関係者の危機感の欠如などによると指摘しました。医療をサービス業ではなく、 「国民の生活を守る安全保障」としてとらえ、経済と連動せずに議論すべきだと強調しました。

日本の国民医療費は約31兆円です。ちなみに、パチンコ産業の売り上げは約30兆円だそうです。 政府は高齢化が進むため医療費は急増すると言っていましたが、医療費抑制政策のためここ数年は ほとんど変わっていません。この金額は国民1人当たりで世界第7位、国内総生産での比率では19位です。

WHOの調査では、日本の医療は世界一と評価しています。アメリカは37位です。 ところが、患者の満足度は日本は3割とアメリカの半分以下です。 安くて最高といわれる日本の医療は、医療従事者の数が極端に少ないのが問題です。 100床当たりの医師数は日本はアメリカの6分の1、看護師数も5分の1程度です。 世界一の医療はスタッフの努力の上に成り立っているのです。 経済的な裏づけがなければ医療は成立しませんが、医療の質と安全性を高めるためには、 経済を中心にした医療には疑問を感じます。

イギリスでは医療費抑制政策が失敗した

日本福祉大の近藤克則さんは、長年の医療費抑制政策から転換し、医療費を1.5倍と大幅拡大したイギリスの 医療改革を紹介しました。日本では医師・看護師不足を背景とした医療事故の多発など、医療費抑制政策の 弊害がすでに見られています。日本の医療の今後の課題は医療費抑制でなく、質の確保であるとして、 そのためには適度な医療費拡大は不可欠との考えを示しました。

先進7か国で、日本と医療費水準で最下位争いをしているのがイギリスです。イギリスは長年医療費抑制政策を 続けてきましたが、2000年に5年かけて医療費を1.5倍にする政策へ転換しました。イギリスでは、医療費は税で まかなわれ、患者の負担はほとんどありません。しかし、診療はすぐには受けられません。 救急患者の入院は平均3時間半待ち、一般外来でも半数以上が2日以上待たされるのだそうです。 専門医療となると、待機者が100万人以上です。

その原因は、医師数が近隣国の3分の2など、医療従事者の不足です。労働条件が過酷で、医学部を卒業しても 海外に出てしまう人が少なくなく、深刻な状況を改善するには、医療費の拡大しかないと方針を変えたのです。 医師数が少ない病院は、費用は安いが死亡率が高く、医師数が多いと、費用はかかるが死亡率が低いということが イギリスの状況から分かりました。日本は、医療費の抑制が続いていますが、安さか質かどちらをとるのか、 国民が選ぶ時代を迎えています。

「経済主義」による医療制度は崩壊することがイギリスの政策から明らかです。質の確保を第一として医療改革を 進めることが重要だと思います。