新聞報道を見ると、病院の勤務医は疲弊してしまい、小児科や産婦人科が閉鎖され、開業医は楽をしているといいます。 2年に1回のことですが、この4月に病院の公定価格である診療報酬の改定が行われます。 今回の改定では、開業医の収入を少なくして勤務医に回すのが目的なのだそうです。 その中で、医師の診察料が引き下げられることになりました。 「外来管理加算」という診察料は医師の技術料として認められている項目ですが、 「5分以上」の「懇切丁寧」な診察でなければ認めないということですので、 「3時間待ちの3分間診療」の状態では、現実には診察料が引き下げられるのと同じです。

ちょっと長くなりますが、いかに現実を無視したものであるか、その内容を説明します。 かなり、くどいです。心情をご理解下さい。『 』で囲んだ青色の太字は、説明のために厚生労働省から示された文章です。 これは開業医だけでなく、ベッド数が200未満の病院にも適用されます。

まず、『「外来管理加算」は、 処置、リハビリテーション等を行わずに計画的な医学管理を行った場合に算定できるものである。 外来管理加算を算定するに当たっては、医師は丁寧な問診と詳細な身体診察(視診、聴診、打診及び触診等)を行い、 それらの結果を踏まえて、患者に対して症状の再確認を行いつつ、病状や療養上の注意点等を懇切丁寧に説明するとともに、 患者の療養上の疑問や不安を解消するため次の取組を行う。』とあります。 『丁寧な問診』、『詳細な身体診察』、『懇切丁寧に説明』は、 私たち医師がこのようにしていないと受け止められているのですから、言われても仕方がありません。 懇切丁寧な診察でなければ診察料は払えませんよということです。

次に、『提供される診療内容の事例』が親切にも示されています。 『問診し、患者の訴えを総括する。』では、 『「今日伺ったお話では、『前回処方した薬を飲んで、 熱は下がったけれど、咳が続き、痰の切れが悪い。』ということですね。」』と例が上げられ、 『身体診察によって得られた所見及びその所見に基づく 医学的判断等の説明を行う。』との具体例として、 『「診察した結果、頸のリンパ節やのどの腫れは良くなっていますし、 胸の音も問題ありません。前回に比べて、ずいぶん良くなっていますね。」』、という診察内容のモデルまで示されています。

さらに、『これまでの治療経過を踏まえた、 療養上の注意等の説明・指導を行う。』では、 『「先日の発熱と咳や痰は、ウイルスによる風邪の症状だと 考えられますが、○○さんはタバコを吸っているために、のどの粘膜が過敏で、ちょっとした刺激で咳が出やすく、 痰がなかなか切れなくなっているようです。症状が落ち着くまで、しばらくの間はタバコを控えて、部屋を十分に加湿し、 外出するときにはマスクをした方が良いですよ。」』と懇切丁寧な指導法が書かれています。

最後に、『患者の潜在的な疑問や不安等を汲み取る取組を行う。 「他に分からないことや、気になること、ご心配なことはありませんか。」』と。 これを読んでどこかで見た記憶がよみがえりました。 そうです、大学卒業直後の初期臨床研修のマニュアルを丸写しした内容です。余計なお世話です。

さて、話を元に戻します。診察料として患者さんに請求できる条件として、 『診察に要する時間として、医師が実際に概ね5分を超えて 直接診察を行っている場合に算定できる。この場合において、診察を行っている時間とは、 患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、 その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る。 また、患者からの聴取事項や診察所見の要点を診療録に記載する。 併せて、外来管理加算の時間要件に該当する旨の記載をする。』と書かれています。

開業医の『3分間診療』は決して短い時間ではないと書いたことがあります。 それは、患者さんのこれまでの長い経過を理解した上での3分間であり、初めて診察する患者さんではないからです。 診察時間とは、『その間一貫して医師が患者に対して問診、 身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間』ですので、 『患者からの聴取事項や診察所見の要点を診療録に記載』する時間も必要です。 またまた書類作りの時間が必要になり、患者さんと雑談をしたりする時間などとても持てそうにありません。 毎回の診察を厚生労働省が指導するようにしていたのでは、患者さんにとっても無意味な時間となり、医院の経営も成り立ちません。

沢田内科医院では、看護師が診察前に患者さんから話を聞き、私が診察する時に受診した理由を 早く把握して無駄な時間を省くようにしています。 薬を渡す時も看護師が説明をして間違いがないように渡しています。 つまり、事務職員、検査技師、看護師と職員みんながチームで診療を行うことで、 できるだけ待ち時間を短くし、内容の濃い診療にしようと努力しています。しかし、今回の改定では、 『一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を』 行うことが条件ですので、私のやり方には逆行しています。

厚生労働省は、平成19年12月28日付けで、『医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について』 という通知を出しています。
「看護師等の医療関係職が、患者との診察前の事前の面談による 情報収集や補足的な説明を行う・・・・。」とか、 「慢性疾患患者においては、看護職員による療養生活の説明が・・・・。」 などと医療職間での役割分担を勧め、 「これにより医師の負担を軽減し、効率的な外来運営が行えるとともに、 患者のニーズに合わせた療養生活の援助に寄与できるものと考える。」と、 医師の負担を軽減するための方法をここでも具体例を上げて説明しています。 今回の診療報酬改定内容とは異なり、厚生労働省のやり方は一貫していません。

今回の改定は病院を優遇するための改定と言われています。 しかし、これが適用されると、病院を優遇するどころか、ベッド数が200未満の町立病院レベルの病院では 経営が悪化するところが少なくないでしょう。 医療崩壊をますます進めてしまう政策です。私はこれまで12年間、開業医を続けてきました。 患者さんがたくさん来てくれますので、経営上の困難さを感じたことはありませんでした。 しかし、今回の改定では、沢田内科医院の経営状況が悪化するのは明らかです。 このまま職員の雇用を継続できるだろうか、規模を縮小しなければやっていけないかな、 患者さんには申し訳ないが今のやり方を変えざるを得ないかな、などと危機感を感じています。

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