君子は豹変す 小人は面を革む (『易経』)

「君子は豹変す」と言えば、どんなことを思い浮かべるだろうか。「君子」は、「学識、人格ともに優れた徳の高い人」という意味で、社会的地位が高く教養豊かな指導的な立場の人、といったところでしょうか。「豹変」は、「行動や態度、意見などががらりと変わること」。そういう二つの語から成り立つ「君子豹変」は、立派な人が機をみて態度や考えを安易に変える、という否定的な意味で使われることが多いと思います。私も以前はそのように思っていました。しかし、本来は過ちを改めることを評価する肯定的な意味です。

誤りに気づいた時に、「君子」はきっぱり行動を改め、「小人」は変われるが上っ面を改めるだけで内容は全然変わっていない、という意味です。豹の毛が季節に合わせて抜け変わり美しい斑文となることから、君子は時代の変化に合わせて自分を素早く的確に変えていけるとの意味です。確かに、私たちは過去の過ちや自分のこだわりに引っ張られて意識や態度、生き方をすぐには変えられないものです。「こうした方がいいな」と思いながらも意地を張って、結局は変えられず後悔することが少なくありません。

ちなみに、私が愛用する『新明解国語辞典』では、「君子」は、『些細なことに感情を動かしたり、誘惑にあって自分の初志を見失ったり、困難に出くわして、くじけたりすることが無い、理想的な人格者』となっています。「豹変」は、『(態度・意見などが)がらりと変わること(もとは良い方に変わることを言った)』となっています。

さて、前置きが長くなりました。これを書き始めたのは、民主党が総選挙で大勝したことに関連したことを書きたかったからです。選挙の公約ほど守られない約束もありません。これからも同じでしょう。民主党のマニュフェストを見ても、とても全部を実行できるとは思えません。無駄を削減して財源を確保するということですが、誰から見ても無駄だということはそんなに多くはないでしょう。多くの人から無駄だと思われていることでも、それで生活している人たちがいるわけですから、無駄を削減すると、それは痛みを伴うことになります。

自民党も「無駄ゼロ」という目標を掲げ、小泉改革では公共事業など「無駄」を大分減らしました。社会保障費も削減されました。その結果が医療費抑制政策となり、医療崩壊の現状を招いたことは明白です。財源を確保するために「まず無駄をなくせ」というのは正論です。民主党は、消費税を含めて増税はしないといいます。当然、財源には限りがありますから、必ず痛みを伴う無駄削減となります。

高速道路無料化は、物資の流通などの経済効果がどれ位あるのか私には評価できませんが、子ども手当てや高校授業料無料化も公約として示されました。最低賃金は現状と比べ、とても実行可能な額とは思えません。私は、ここで民主党に、『君子豹変』を求めます。マニュフェストに書いてあるから必ず実行しなければ次の選挙は戦えないという大衆受けを狙っただけで無理に政策を実行して欲しくありません。議論した結果、実行不可能なこと、誤りと分かったことは、「豹変」して実行しないで欲しいのです。

今回の総選挙は、「自民党政権を変えてみたい」、「一度、民主党にやらせてみよう」などという理由で民主党に投票した人が多いと思っています。民主党のマニュフェストに賛成して民主党を積極的に評価して投票した人はどれ位いるのでしょうか。

夫婦の間でも、無駄に意地を通しても何にもならないことは、みんな、経験していることです。さっさと「君子豹変」した方がいいのです。