私が初めて小説を読んだのは、高校入学直前でした。新聞は読んでいましたが、それまで、教科書以外の本を読んだことはありませんでした。 弘前高校に入学が決まると、指定された本を読んで感想文を書くという課題がありました。その時が初めてだったのです。太宰治の「津軽」でした。ちなみに、本を読まなかったのは西目屋村に本屋がなかったからです。

高校時代に読んだのは、ほとんどが有名な小説です。それまで小説というものを読んだことがありませんでしたので、面白くて仕方がありません。大学になると、安楽死などに興味を持ったことから、小説に加えて、いわゆるノンフィクションを多く読むようになりました。大学を卒業してからは、忙しくて一般書を読んでいる暇もありませんでした。再び本を読み始めたのは、昭和63年に県立中央病院へ赴任してからです。その頃は、血液疾患や悪性腫瘍の化学療法を主な仕事としていましたので、闘病記、尊厳死、ホスピス関係の本を多く読んだのは当然でした。

私は1冊の本を読み終えてから、次の本を読み始めるということをしません。手に入れた本は、すぐに内容を確かめたくなりますので、次から次へと開きます。医院の院長室、自宅の居間、机の上、ベッドの脇の机、どこにでも本を積んでいます。読んでいるページを開いて重ねているのです。多い時は10冊位を並行して読んでいることもあります。本を読むには時間がかかりますから、一生に読む本には数限りがあります。ですから、ちょっと読んでつまらないと判断した本は、読むのを止めます。時間がもったいないからです。

医師と患者の関わり合いについては、教科書的に教わることはありません。私の現在の診療姿勢は、これまで関わってきた患者さん、特に亡くなった患者さんとの関わりから成り立っています。そして、今まで読んできた本の中での疑似体験から自分なりに学んだことが基本になっていると考えています。これからも、できるだけたくさんの本を読み続けるつもりです。

私は一度読んだ本を読み返すことはほとんどありませんので、読み終えた本は待合室の本棚に置いています。どうぞ、自宅に持ち帰ってでも自由にお読み下さい。他に誰かが読んでくれれば、本にとっても幸せなことでしょう。