平成15年から病歴要約を作り始めました。最初は病院に勤務していた時と同様に患者さんが入院した時のまとめを作っていました。 しかし、平成7年に開業してからのカルテが厚くなり、外来で診療する時だけでは患者さんの状況を把握できなくなったため、 時間を割いて外来カルテを見直しする必要が出てきました。 そこで、継続して通院している患者さんの『病歴要約』を作ることにしました。

計画した最初の段階では、1,000人分程度で十分ではないかと予想していましたが、 それを超えてもまとめが必要な患者さんのカルテがたくさん残っていました。 結果として、平成19年6月30日で1,478人分を作りました。ニュースレターの記事を見ると、 平成16年11月で450人分を書いていますので、その後2年半で、約1,000人分書いたことになります。 入院しただけの若い人のカルテもありますので、必ずしもいつも通院している患者さんだけではありません。

病歴要約を
作っている理由

繰り返しになりますが、病歴要約を作っている理由は、2つあります。 一つは、カルテが厚くなってきたために、これまでの病歴を十分に把握できなくなったこと。 つまり、検査をしたり経過を見るべきことを見逃がしてしまっている可能性があること。 もう一つは、短い診察時間で治療経過をすぐに把握することです。 外来の診察時間は、「3分間診療」と言われているように非常に短いものです。 この短い時間でカルテの古い部分を毎回見ていたのでは時間の無駄になります。 見た瞬間に、これまでの状況をすぐに把握するためにはまとめが必要です。

余談になりますが、通院している患者さんの「3分間診療」は、 新聞で言われているような「3分間診療」でないことは、通院している患者さんは理解しています。 つまり、長い流れの中での「3分間」であり、今日初めての瞬間的な「3分間」ではないことです。

病歴要約は、ここ2年の間に受診した比較的新しい患者さんの分はまだ作っていません。 当初の予定ではもっと早くできるかと思っていたのですが、本格的に取り組んだのが平成16年ですので、4年以上もかかりました。 何事も同じですが、完成の領域に達してからが問題です。これは続けて行かなければ意味がありません。 つまり、新しく加えると同時に、毎年更新して行かなければなりません。 これまでも新しく作るとともに、2年前の分まで新しくしてきました。 1年間に1,000人分の内容を新しくして行くのは、大変な時間を要します。 しかし、それを続けていく価値があると考えています。1年ごとに見直すことで、きちっとした健康管理ができるからです。

病歴要約で
家庭医としての
役割を果たす

この病歴要約をカルテの見直しだけでなく、もっと発展的に使うアイデアをずっと暖めてきました。 内科医院へ通院してくる患者さんは、全身管理が必要な人が大部分です。 例えば、高血圧の患者さんは、将来、脳梗塞や心筋梗塞にならないために治療を継続します。 その過程で、糖尿病を合併しないか、高脂血症はないか、腎臓の働きはどうか、目は大丈夫だろうか、 この他に、癌年齢の人が大部分ですので、胃癌や大腸癌などがないだろうかと、がん検診を勧める必要もあります。 このようなことに病歴要約が役に立ちそうです。

今作っている病歴要約は、患者さんの病歴としては不十分です。 これまで私が知りえた情報しかないのは当然です。 現在、他の医院に通院しながら、私が把握していないことが多いからです。 患者さんは知られたくないこともありますので、この点を考慮しながら、 できるだけこれまでの病歴となるようにもう少し充実させる必要があります。 一斉に開始するわけには行きませんが、この病歴要約を皆さんにプリントして渡します。 そして、間違っていること、足りないことを付け加えて充実したものにしたいと思っています。

家庭医
としての役割

私の役割は患者さんが健康を守ることを手助けすることです。 そのためには、病気を早期に発見すること、病気になったら私のできる範囲で治療すること、 専門医に紹介すること、将来の病気を予防すること、これらを実行することです。 具体的には、高血圧症、糖尿病、高脂血症、心臓病、胃腸病、これらの治療を行い、 将来、脳梗塞や心筋梗塞にならないようにすること、それと、がん検診をしっかりやって行くということです。

来年4月からは、基本健診も、糖尿病、高血圧症、高脂血症、肥満、というメタボリックシンドロームを標的にした健診に変わります。 糖尿病を減らすことと、脳梗塞と心筋梗塞を減らすことが最大の目的です。 基本的には、市町村や健康保険組合で行う健診を受けることです。 健診のデータは必ず医院へ持ってきて下さい。 それを病歴要約に記載して、きちんと検査が行われているかどうかチェックできます。

男の人は、胃癌、大腸癌、肺癌、場合によっては前立腺癌、 女性は、これらに加えて、乳癌と子宮癌の検診をきちんと受けていることをチェックします。 これは本来、個人のレベルで行うべきことではありません。 行政レベルで推進すべきことですが、現在のがん検診の受診率は15~30%と非常に低いです。 病歴要約にがん検診をいつ受けたかが記載されますので、私の医院へ通院している患者さんには、 がん検診をきちんと受けるようにくどいくらい話をします。

時間が足りない

これらを実践するためには時間が足りません。 外来の待ち時間を短くするために、平成17年から検査技師の宇野さんに腹部超音波検査のトレーニングを始めました。 ほぼ目的を達成し、独り立ちの時期ももうすぐです。 看護婦のマンパワーの一部を病棟から外来に移しました。 その他、いろいろな対策を試してきましたが、決定打はなく、試行錯誤を繰り返しています。 平成17年から診療時間を短くしました。 私は、夕方遅くまで診療したり、休日に診療して便宜を図るなど、 実際に患者さんを診察することが、良質の医療サービスを提供することだとは思っていません。 病歴を見直して患者さんの状況を把握した上で、 新しい知識を仕入れて技術的なことをマスターするなど医師としての研修を積んだ結果を皆さんに提供するのが重要だと思っています。 そのためには、診療時間を短くする必要も出てきます。結果として良質な医療を提供できるようになります。