■「できるだけたくさんの方に、できるだけ早く、そしてワクチン廃棄なしに」

 新型コロナウイルスのワクチン接種がいよいよ本格的に行われることになりました。ワクチン接種に関して、当院として考えていることは表題の内容に尽きます。集団が小さければワクチン接種で抗体を獲得する方の割合を多くすることは容易です。例えば出入りの少ない老健施設などで職員、入所者の全員がワクチン接種すれば集団感染の危険をかなり少なくすることができます。弘前は人口16万8000人、65歳以上は55000人が接種対象となります。首都圏では対象人数があまりに多くて、予約から接種まで大規模にならざるを得なくなり混乱をきたしています。一方で田舎であればあるほど、人数の把握も容易ですし、接種のしかたを工夫することでより効率的にワクチン接種を進めていけるのではないかと考えています。私たちはまず通院患者さん、西目屋村、茂森新町、西茂森をターゲットに重点的にワクチン接種をすすめることにしました。

■職員のワクチン接種

当院の職員は4月30日より、鳴海病院や愛成会病院で医療従事者用のワクチン接種を開始しました。職員29名のうち初回は17名。全員一気に接種して具合が悪い方が続出すると、医院の運営が成り立たなくなるので2グループ以上にわけて接種することにしました。医師も初回は美彦、2回目は直也、師長も前師長と分けて接種しています。片方のグループだけでも運営していけるようにするためです。幸い1回目は接種部位の痛みのみで重篤な副作用は認められませんでした。2回目以降は7割の方が倦怠感、4割の方が発熱するとの報告があるので、症状がひどい場合は解熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)の内服、それでも具合の悪い方は休養してもらうことで対応したいと考えています。私(直也)は初回接種後に全身のかゆみが出ました。2回目で大きな副作用がでないことを祈っています。不安なのは医者も一緒です。

■アナフィラキシーショックの勉強会

 ワクチン接種で最も怖いのが、注射直後のアレルギー反応であるアナフィラキシーショックです。スズメバチに刺された後に、全身が真っ赤になり息苦しくなって血圧が低下するというのを聞いたことがあると思います。新型コロナウイルスのワクチンに含まれているポリエチレングリコールに対するアレルギーで同じような症状が出る人がいると報告されています。4月にアナフィラキシーショックへの対応を学ぶために、看護師、事務を対象に院内で勉強会を開きました。アナフィラキシーショックは起こると苦しいですが、特効薬もありますし、治療法も確立しているので早めに診断することが大切です。また、同じ内容で弘前市内の医療従事者向けに、弘前市医師会で同様の勉強会を行いました。280名以上の方が受講され、安全にワクチン接種ができるよう対応を確認しました。


■西目屋村のワクチン集団接種

 5月7日より西目屋村の65歳以上の方のワクチン接種がはじまりました。初日にはNHKとATV、陸奥新報の取材も入りました。西目屋村の集団接種は全員当院で行うことになったため、水曜、金曜午後の休診時間を利用して1回あたり80~90名にワクチン接種することにしました。職員も毎回10名前後が残業して協力してくれています。村の方でも移動が難しい方も含め、保健師さんが協力して大型バスで連れてきて接種しています。今のところ大きなトラブルもなく順調です。6月が終わる頃には西目屋村の65歳以上の方の2回接種が完了します。そうすると村民の4割の方が抗体を持つことになりますので、強力な感染予防対策になるのではないかと期待されます。


■茂森新町、西茂森のお住いの方へワクチン接種のお知らせ

 西目屋村の集団接種で、少しずつ院内でワクチンを接種するノウハウが蓄積されてきました。当院には西目屋村のワクチン接種の関係で、ワクチンをマイナス70℃で保存できる専用の冷凍庫が導入されました。ここに弘前市の方からもワクチンが供給されます。第1弾として3000人分が届くとの連絡がありましたので、通院中の患者さんの予約を順次入れはじめました。1~2か月に1回通院されている方には6月以降の次回受診時に接種できるようにしています。お住いの市町村に関係なく予約しています。当院には65歳以上の患者さんは2200人通院されているので、通院中の患者さんだけでは余剰分が出てしまいます。

そのため茂森新町、西茂森にお住まいの方にワクチン接種予約の希望を募る手紙を送ることにしました。幸い茂森新町、西茂森には強力な町内会組織がありますので、町内会の会議で趣旨を説明させていただき区長さん、組長さんを介して直接手渡し、あるいは回覧板のルートを利用して配布していただきました。また院内でもワクチン予約専属の職員を置き、電話の回線も3つ増設しましたが、電話が一気に殺到しますとなかなか対応しきれなくなってしまいます。そのため事前にワクチン予約を希望される方の連絡先を教えていただき、医院の方からあらためて電話を入れる方式をとりました。

初めての試みであり、うまくいくようであれば弘前のほかの地域でも応用できるモデルケースになるのではないかと期待しています。ワクチンそのものは6月以降、続々青森県にも到着予定とのことですので少しでも早く、多くの方に打てるようにもっていきたいと思っています。

■発熱外来の状況

 5月のゴールデンウィーク前後から発熱患者さんが急増しています。少し前倒しで行われたさくらまつりや大型連休に合わせた帰省などの影響が考えられます。県外移動があった方を中心に積極的にPCR検査を実施しています。当院でのPCR検査は4月には40件くらいでしたが、5月に入ってからは200件近くになっています。特につながりなくパラパラと陽性者が出ています。5月20日現在、青森市は60系統で547名の感染者、弘前は58系統で130名ですので、クラスターあたりの感染者数は弘前の方が小さいものの地域への感染の拡がりは同じくらいと考えていいと思います。

連休後は首都圏の感染増加に伴い院内のPCR検査用の試薬が不足しました。なかなか院内ですぐに結果が出せず、東京に送る外注検査に頼らざるを得ない状況が続いていました。(5月後半現在回復しています)ワクチンだけでなく、検査の試薬も全国的な感染状況に左右されるものだと考えさせられた出来事でした。また、発熱患者さんを診察するスペースの問題もあります。駐車場も手狭なため裏の狭い通りに車でお待ちいただいて診察したりしています。近隣住民の皆様へもご迷惑をおかけしながらの綱渡りの運営が続いています。

新型コロナのコールセンターや保健所から発熱患者だと紹介されても、実際診察してみると風邪以外にも蜂窩織炎や尿路感染症、胃腸炎、関節炎、悪性リンパ腫、ツツガムシ病など多彩な診断に至っています。毎日非常にたくさんの患者さんが来られますが、ひとりひとりについてしっかり診断名がつくまで追求し、誤診がないよう取り組んでいきたいと思います。