4月3日、2日後に控えた弘前大学の入学式に先立って医学部で新入生歓迎会を開きしました。私は医学部同窓会鵬桜会の理事長ですので118名の新入生を前にして歓迎の言葉を述べました。私もそうでしたがほとんどの学生は医師とは何かを深く考えてはいないと思います。医学生はこれから医学の知識を学び実習をするわけですが、その背後にある医師とは何か、医学とは何か、医療とは何かを考えながら医師になって欲しいという願いを込めて歓迎の言葉を述べました。以下は一部割愛していますが歓迎の言葉です。

約1300文字で描いた緒方洪庵
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。期待に胸を膨らませて入学式を迎えたことと思います。弘前大学医学部には鵬桜会という同窓会があります。私はその理事長を務めています。本日は、皆さんの先輩を代表してご入学をお祝い申し上げます。
医学部へ入学するということは、医師になるという目的のためだと思います。皆さんはどのような動機で医師になろうと弘前大学医学部へ入学してきたのでしょうか。どのような医師になろうとして入学してきたのでしょうか。もちろん動機はみんなそれぞれ違うと思います。崇高な理想を掲げて入学した人、病む人を助けたい、社会的地位が高い職業だ、収入が多い、親に勧められた、勉強ができるので医学部を受けた。医師になるということはどういうことなのかをしっかり考えていない人もいるかも知れません。
医療とは何なのか、医学とは何なのか、医師とは何なのか、医師にはどのようなことが必要なのか。どのような動機で入学してきても、これから医学を6年間勉強する中でよく考えればいいことです。その中で自分がどのような医師になるのか、どのような道を進むのかを決めて行けばいいことだと思います。
皆さんの先輩として、皆さんを歓迎して話をしていますが、二つのことを覚えておいて下さい。江戸時代の終わりの頃に、緒方洪庵という医師がいたということ、「医戒」というものがあるということ、この2つです。
今はコロナウイルス感染症がダラダラ続いていて亡くなった人もたくさんいます。江戸時代の終わり頃、天然痘とコレラが流行し多くの人が亡くなりました。この時に医師として活躍したのが緒方洪庵です。緒方洪庵は、約200年前にドイツの医学書を約30巻、最後の部分を「医戒」、医学に医、戒めの戒で「医戒」の名で日本語に訳して出版しました。
『医戒』には、医師が守るべき戒めが12ヶ条にまとめられているのですが、これら12ヶ条の一つひとつが、医療を実践する者にとって「医療倫理」とも呼べる優れたものです。ここでは詳しくは述べませんが、「人としていかに生きていき、命を救う立場にある医者がどう行動するべきか」を教えたのです。医師のみならず、これから医学を学ぼうとする者にとっても、必要なことが書かれています。時代背景が違いますので違和感を覚える部分もありますが、200年の年月が流れてもその神髄は変わりがありません。
皆さんは医師になろうと一生懸命勉強してきました。しかし、医師とはどのようなものであるのかを深く考えたことがある人は少ないと思います。皆さんがどのような動機で医師になろうとしてこの場にいても構いません。これから6年間、医師になるための勉強をします。医師としての勉強はそれ以後も生涯続きます。そして、医師をするためには医学的知識や医療技術だけでなく、どのような心構えが必要であるのか、そのことも必要になります。その時に、緒方洪庵、医戒のことを思い出してください。
6年後には医師国家試験が待っています。でも、学生時代は勉強するだけではなく友達作りにも励んで下さい。きっと皆さんの大きな財産になることと思います。本日はご入学おめでとうございました。




第139号より