厚生労働省は、開業医(診療所)の地域で果たすべき役割として、 日曜日や祝日、夜間も診療することを求めた報告書案をまとめました。 2030年には75歳以上の後期高齢者が、現在の2倍近い2260万人に増えると予想されている一方で、 現在は時間外や日曜日や祝日、夜間の診療を行っている診療所が減少し、身近な地域での医療に不安があると問題提起しています。

このため、開業医について、(1)地域で在宅当番医制のネットワークを構築し、 日曜日などは救急センターに交代で勤務する、(2)いつでも携帯電話で連絡が取れるようにする、 (3)午前中は外来、午後は往診、訪問診療を行い、(4)診療所のグループによる対応で24時間体制を確保する、 といった取り組みが期待されるべきだと提言しています。

病院と開業医(診療所)の役割分担については、(1)開業医は一次的な地域医療の窓口として患者の生活を支えながら、 急な発症への対応を診療所同士や病院と連携し、必要に応じて病院や老健施設を紹介する、 (2)急性期の病院は、開業医から紹介された患者や急性期の患者を受け持ち、 質の高い医療が24時間提供されるよう原則として入院治療と専門的な外来診療のみとする、としています。

つまり、専門治療は大病院で行い、開業医は「かかりつけ医」として24時間体制で患者を診るということです。 こうした「すみわけ」は何も目新しいことではありませんが、厚生労働省が進めるこの機能分担が成功すると、 大病院での「待ち時間3時間、診察3分」という事態は解消され、勤務医や看護師は過重労働から解放され、 さらに小児科や産科の医師不足も解消される、こんな幻想を抱かせてしまいます。

理想とされる開業医は、地域の人びとから信頼され、往診や夜間診療をいとわず、 風邪から癌の早期発見まで幅広く対応できる人です。これをすべて実現することなど私にはできません。 24時間体制で往診に応じる開業医には診療報酬を手厚くし、外来だけに特化し往診に取り組まない医師の報酬は抑え込み、 複数の疾患を持つ患者を一人で総合的に診察できる開業医を「総合医」として認定するのだそうです。 厚生労働省の狙いは金のかかる入院を減らし、在宅医療を促して総医療費を抑制することにあります。 しかし、時間を問わずに往診に出向き、すべての病気をカバーする「かかりつけ医」は不可能です。

開業医は勤務医を経ていますので勤務医に比べて年齢は当然高いです。 弘前市医師会ホームページで、内科小児科に掲載されている75の医療機関のうち、私よりも年上の人は40人です。 外科に掲載されている20医療機関では、私よりも年上は14人です。平均年齢は60歳にはならないと思いますが、 それに近い数字だと思います。つまり、普通の会社であれば、定年に達している人が約半分ということです。

この高齢者のグループに、『通常の診療の他に時間外診療を行い、いつでも携帯で連絡が取れ、 グループとはいえ24時間体制を確保し、時には休日に救急センターに勤務する』、 こんなことを要求すること自体が間違っています。若い開業医にその役割を期待しているとしても、 開業した目的が変わってしまっては、その士気に大きく影響すると思います。『開業医は楽をしている』と言われます。 それを目的に開業した人たちも確かにいます。しかし、勤務医を続けることがイヤになって開業した人は少なくありません。 開業医を続けること自体に嫌気が差してくれば、医療崩壊はますます進行してしまいそうです。

開業医も忙しいのだとここで改めて書くことはしませんが、「国民衛生の動向(厚生統計協会、平成18年)」によると、 平成14年の推計では、日本全体での1日外来患者数は、病院が195万人、開業医など一般診療所が338万人です。 ちなみに、歯科医院へは115万人が通院しています。現在は、勤務医が忙しくて疲弊している状態ですが、 外来患者の3分の2を担当する開業医まで疲弊し始めては、日本の医療は壊滅的です。

医療費を削減する目的で始めた介護保険制度も揺らぎ始めています。医療費を抑制し続けている政策の失敗と、 医師不足への対策が遅れている政策の失敗を開業医に転化しようとしているとしか思えません。 医師不足のため産科を閉鎖する病院が続いていますが、 日本で生まれる子どもの約半数は開業医の許で生まれている事実を忘れてはいけません。

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