お酒は「百薬の長」と言われますが、私たちの方から見ると体だけでなく家庭をこわしている人が少なくありません。ほとんどが男の人で、多い時で4人部屋の全員がお酒で体をこわした人ということがありました。入院当初は食欲がなく体が震えたり具合が悪いのですが、アルコールを止めるとよくなってきます。数日もすると何で入院しているのだろうかと思われるほど元気になります。みんな人のいいおじいちゃんで、トラブルを起こすこともなく、同じ部屋の患者さんとすぐ仲良くなり、楽しい入院生活を送ります。

「お酒は絶対ダメですよ(私も津軽弁ですが標準語で書きます)」と言うと、「はい、はい、はいッ」と必ず3回以上「はい」と言うのが特徴です。「やっぱり、さげだなッ」、「こんだだば止めだ」、「さげだっきゃ見たぐもなぐなった」、「かがさ、さげ投げでしまれッてしゃべった」と殊勝なことを言い始めます。肝機能がよくないので入院させておくと、2週間もすると飽きてきます。「入院して飽きてくるほどいいことはないんですよ。具合が悪ければ飽きてなんかいられないから(ここも原文は津軽弁)」と言うと、「それもそんだなッ」とすぐに納得して素直にしています。いよいよ退院の日です。パジャマから着替えて、「さげだっきゃ、絶対飲まねッ」と皆の前で挨拶がわりに言いますが、前科何犯の旦那さんの言葉に奥さんはニヤニヤして聞いているだけです。

お酒を飲んで入院した人たちは、このように人のいい人ばかりなのです。それが、酒が入ると人が変わったようになるのです(入院しているとお酒が入らないのでいい人なのです)。酒を持ってこないと暴力を振るう人、朝から酒を飲んで家から出なくなる人、酒を飲んでごはんを食べないためにだんだん体が弱ってくる人など家族にとっては家庭生活に支障をきたすようになります。特に暴力を振るうようになるとどうしようもなくなり、警察の力を借りることがあります。「いくら言っても聞かない」、「暴力を振るうから飲ませてしまう」、「自分で買ってくるから隠してもどうしようもない」と家族は言います。このようにならないようにお酒を楽しみたいものです。周りの人も、このようになる前に手を打ちたいものです。

注:ニュースレターとホームページは全国に読者がいますので、私の発言は標準語で表記しました。なお、患者さんの発言で「こんだだば」は「今度は」のこと、「かがさ」は「奥さんに」のことです。