弘大附属病院の初期臨床研修のひとつとして、10月1日から31日まで赤石真啓先生が研修しました。これまでの研修医は腹部超音波検査や内視鏡検査に興味がある人が多かったのですが、赤石先生は基本的な外来診察だけをしたいということでした。救急センターでは多少経験があったようですが、これまでの研修はほとんどが病棟だったので、通常の外来診療を行うのは初めてのようでした。

まず、現在は医療面接といいますが、患者さんが何を求めて病院に来たのかを聞き出すトレーニングを始めました。患者さんが病院を受診する理由はそれぞれ違います。同じ風邪症状で受診する場合でも、「家の中で他の家族にうつせばだめだから」、「咳をしてうるさいと言われるから」、「奥さんが病院へ行けとうるさいから」、「来週、孫が来るので、その前に風邪を治しておきたいから」など、自分のからだのためではない理由で受診することがむしろ多いくらいです。そして、ただ単に風邪を治すのではなく、これらに対応することが臨床現場では非常に大切なことです。

次は、身体の状態を把握することです。単に診断名を当てはめるのではなく、身体がどういう状態にあるのかを知らなくてはなりません。それには、医師自身の体を使って診察し、患者さんの身体所見を取る必要があります。若い医師はどうしても血液検査やレントゲン検査に頼ってしまい、話を詳しく聴いたり身体所見を取って、患者さんの状態を絞り込んでいくことが疎かになりがちです。

身体所見を取る場合の指標として、肝臓と甲状腺を触れるということを設定しました。最初はなかなか触れることができませんでしたが、次第に自分ひとりで触れることができるようになりました。非常に長く時間がかかることもありました。赤石先生は完璧主義者の面があり、納得しなければなかなか診察が終わらないこともありました。

話を聴いて身体所見を取り、自分なりの診断を行います。そしてそれを確認するために検査をすることもあります。このようにして診断を確実にして治療に進みます。ただ、ここでも、患者さんが自分のことをどのように考えているかを知る必要があります。その上で、どのように治療を進めていくかを決めます。

赤石先生は、教科書的な知識は非常に豊富で、細かいことに対しても的確な答えが返ってきました。ただ、その知識が臨床の現場ではどのような形で現れているのかを理解することができない場面が何度かありました。今は研修の時期ですので、この豊富な知識が臨床の現場で生かされるように研修を続けて欲しいと思っています。初日に姿を現した赤石先生は、髪を短く刈り込んでいました。職員から、「野球帽とバットが似合う!」などとからかわれていました。集合写真は最終日に撮ったのですが、髪は伸びてきていました。将来は精神科医として活躍したいとのことでした。