先日、肺結核の患者さんが受診しました。結核病棟を持つ病院が少なくなり、 結核は過去の病気だと思っている人が少なくありません。 しかし、他の病気と比べて見ても、結核は少なくなっていません。 高齢者や若い人たちの間では、むしろ増えているようです。現在の結核の状況について書いてみます。

世界では20億人が結核に感染し、毎年200万人が死亡しています

世界では、総人口の約3分の1の20億人が結核に感染しており、 毎年800万人が新しく発症し、200万人が死亡しています。 新しい発症者の95%以上、死亡者の98%以上はアジア地域をはじめとする開発途上国で発生しています。

日本では、毎年2000人が結核で死亡しています

経済では先進国ですが、感染症に関しては日本は開発途上国です。 結核もその例外ではなく、日本は世界の中では、先進国のトップグループとは差があり、 中まん延国とされています。1年間に新しく感染する人は3万人、死亡する人は2千人以上にもなります。

高齢者と若年者の二つのグループが発症しやすい

現在でも結核の集団感染が時々あります。感染者は二つのグループに分けられます。一つは高齢者です。 若い頃に結核流行を経験していて、すでに結核に感染している人が多く、 体力・抵抗力が低下した時に、眠っていた菌が目を覚まし発病するものです(既感染発病)。 もう一つのグループが若い世代です。結核に未感染のため、結核菌を吸い込むと感染しやすく、 比較的早い時期に発病する危険性があります(初感染発病)。

結核は痰の中に結核菌を出していなければうつりません

結核菌は、結核に感染した人が咳やくしゃみをした時に、空気中に飛び散り、 それを直接吸い込むことで感染します。結核に感染しても、必ず発症するわけではありません。 通常では、免疫機能が働いて、結核菌の増殖を抑えて発症しませんが、 免疫力が弱まっている場合には発症してしまいます。 また、結核に感染していても、痰の中に結核菌を出していなければ他人にうつす恐れはありません。 排菌をしている人でも、結核の薬を飲み始めると、痰の中の菌は激減します。 痰が止まれば周りの人に感染させる危険性は少ないので、心配する必要はありません。

結核は過去の病気ではありません

結核は過去の病気と思い込み、症状が現れても本人も医師も気付かず、受診や診断が遅れ、 集団感染につながる場合が増えています。結核は、もしも発病しても、薬を飲み続ければ治る病気です。 また、痰の中に菌を持った人からしか結核が感染することはありません。 感染しても発病する確率は10分の1です。身近なところで結核が発症しても、 きちんと対応していれば恐れることはありません。

咳や微熱が続く場合は結核も考えます

結核を疑う症状として、咳が2週間以上続く、痰や微熱が続く、だるさや活力がない、 胸が痛い、体重が減少する、などがあります。つまり、結核に特有の症状はありません。 初期症状は風邪と似ていますので、咳や痰が2週間以上続く場合には、 きちんと医療機関を受診し、早期に発見するようにしましょう。