食べるということは、生活する上でもっとも基本的なことです。病気で入院しているからといって軽視されていいことではありません。むしろ、特に楽しみのない入院生活では、一番の楽しみが食事であるということがあります。また、病気で食欲がないからこそ、食欲が出るように食事を工夫することが必要です。特に私たちの医院では消化器疾患と悪性腫瘍の入院患者さんが多いことから、栄養よりもまず第一に食事を残さずに食べてくれることが大切だと私は考えています。そこで、私たちが入院患者さんの食事をどのように考えて提供しているかを紹介します。

食堂から調理室で働いている熊谷さんと須藤さんが見えます

予算とスペースに限度がある個人医院では、設計する段階で入院患者さんの食事を作る場所をどこにするかが問題になります。基本的には外来スペースが1階、入院病室が2階となりますので、食事の材料を運びやすいこと、病室のスペースを広くしたいこと、においや騒音、これらを考えると給食施設は1階の目立たない場所に作ることになります。しかし、食べることは非常に大切なことですし、入院生活と直結することです。そこで、私たちの医院では調理室は2階の食堂のとなりに配置しました。

そして、食事を作っている人たちとそれを食べてくれる患者さんがお互いに顔が見えるようにしました。このようにすると、どのような人たちが自分たちの食事を作っているのか、また、調理する側はどのような患者さんがどのように食べてくれるのかが分かります。病室と同じ階で仕事をしていますので、調理する人が入院患者さんから直接希望を聞いて「食べられる食事」を用意することができるのです。入院患者さんは変わりますので、好評だった料理がいつも好評とは限りません。この変化は調理する人が食べる人の状況を直接見ることでしか知ることができません。

糖尿病は別にして、病気で入院している人は食欲がないのが普通です。特に食欲がない患者さんには調理する人が病室を訪ねて希望を聞き、食べられるものを用意しています。調理室が同じ2階にありますので病室を訪ねることは簡単です。調理する人は病室で患者さんの顔を直接見ることで、患者さんがどのような状況なのかを知ることができます。ソバを食べたい時には用意します。梅干とおかゆだけのこともあります。プリンと果物のこともあります。場合によっては日本酒1合をつけることもあります。栄養のバランスがどんなによくても、患者さんが食べてくれなければ何にもなりません。とにかく、患者さんが食べられる食事を用意することが私たちの医院の第一の目標です。

食器は出来るだけ家庭で使っているのと同じ瀬戸物を使っています。患者さんが喜んで食べてくれれば、少し壊れてもかまいません。実際使ってみますと、それほど壊れるものではありません。食堂でみんなと一緒に食べられない患者さんへは少し重いのですが、食事を部屋まで持って行きます。もちろん、暖かいものは暖かく、冷たいものは冷蔵庫から取り出したものを提供します。ちなみに、食事時間は、朝が7時、昼が12時、夜が6時です。

調理職員は3人です。食べるのは毎日ですので、暦の休日とは関係なく交代で働いています。現在の熊谷博人は2人目の調理師です。私たちの医院へ来る前はとんかつ屋で働いていました。病院給食の経験もあります。今富英、須藤タエの2人は開院した時から働いています。