ノーベル化学賞を受賞した野依良治さんの言葉です。 この言葉自体はフランスの科学者パスツールの言葉なのだそうですが、野依さんの記事で知りました。 野依さんに続いて昨年ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは、 「期待している人のもとに、幸運の女神は訪れる」と言っています。 全く同じ内容のことが受賞者二人の口から出るのは偶然ではないでしょう。

この二人が、もう一つ同じ内容のことを言っています。英語で「セレンディピティ」という言葉です。 セレンディピティとは、求めずして思わぬ幸運に巡りあう力のことで、 今までの常識的な理論の積み重ねでは大発見は望めず、 画期的な飛躍のためにはセレンディピティが必要なのだと言います。 実際、野依さんと田中さん以外にも、失敗からすばらしい発見をしてきた事例はたくさんあります。 ちなみに、ジーニアス英和辞典で「serendipity」を調べてみると、 「掘り出し物を見つける才能」、と書いてありました。何となく、しっくりしない訳ですね。

田中さんはノーベル賞を受賞した時は、盛んに失敗から出た偶然の成果だと言っていました。 「金属の粉末を間違ってグリセリンに溶かしてしまったが、 金属の粉末は高くてもったいないから捨てずに実験をしてみた。 結果を早く知りたくて乾くのが待てずにレーザー光をあてたら、今まで見ることのなかった反応を見た。 いつものように乾いた後でレーザー光をあてていたら見ることはできなかった」、と。 しかし、「きっといい結果は出ないだろう」と期待せずに漫然と見ていたら発見はできなかった。 つまり、「期待している人のもとに、幸運の女神は訪れる」のだと言います。

野依さんは、飛躍のためには、長い目で何かにこだわりを持ち、高いところを目指して努力し続ける姿勢が大事だといいます。 田中さんは、最近の対談を読んでみると、「偶然の成果だということを強調しすぎた。 コツコツと積み重ねることが大事なのだ」、ということを強調しています。 要するに、二人とも、失敗から新しいことを発見はしたが、 ただぼんやりとしていても偶然新発見が出来るというのではなく、失敗から新しい可能性を見出すセンスが必要だ。 そのセンスを研くには、幅広い見識が必要だということです。当然ですね。

開業医の仕事は、同じことの繰り返しです。糖尿病や高血圧の指導や治療も、同じことを繰り返しています。 しかし、10年前と比べてみると、指導している内容や処方している薬が大分変わっていることに気付きます。 私の役割は家庭医として常識的な医療を行うことですが、常に新しい医療サービスを提供できるように、 「人よりも、半歩前を歩いて行こう」、と思っています。 ここにはセレンディピティは必要ではありませんが、幅広い見識は必要とします。 アンテナを広く張り巡らして、新しい確かな情報を求め、医院の医療レベルを高めて行きたいと思っています。