医者がみた遠藤周作
吉田 豊著、プレジデント社
★★★★★
2004/01/15 掲載

著者の吉田豊先生は、元弘大医学部第1内科教授で私の恩師です。弘前大学学長を勤められ、現在は東奥義塾理事長をしています。吉田先生は遠藤周作の大ファンで、自分が主宰する医学会では特別講演として遠藤周作を招いたことがあります。 医学会では、医学関係以外の人に特別講演をお願いすることがあり、視野を広めるためには必要なことだと考えられています。吉田先生は、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈先生、作家の佐藤愛子さんを招いたこともあります。 この本では、遠藤周作を通して吉田先生の医療に関する考えを伝えています。吉田先生の自伝的な本でもあり、弟子としての私も吉田先生の知らない面を知ることができました。

 本書の「はじめに」から・・・

遠藤周作さんを偲ぶ「周作忌」(命日の9月29日に行われる)は今年で第7回を迎えた。毎年、遠藤さんを追慕する多くの友人、知人、そして読者やファンが全国から集まる。わたしもそのひとりである。

遠藤作品を知って30年になるが、今でもわたしがもっとも尊敬する作家であり、深い思慮が求められるたびに、著作に意見を探している。

遠藤さんほど医療問題に首をつっこんだ作家を、ほかに知らない。たんに問題点を指摘するだけでなく、医師、看護師などの医療従事者をはじめ、患者やその家族の意見を集約したうえで、改善に向けての提言を行った。「心あたたかな病院づくり」のキャンペーンに傾けた情熱は驚くばかりであった。遠藤さん自身、死線をさまよう大手術を3回も受けた、いわば患者の玄人だっただけに、その提言はわたしども医療人の心にも強く迫る。

遠藤さんの没後、わたしはその”弱者へのいたわり”の思想からくる切実な願いと思いを、今一度世間に紹介し訴えたいと思っていた。

このことを「三田文学」編集長の加藤宗哉さんに話したところ、賛成くださったばかりか、構成へのアドバイスもいただいた。読者の理解を深めるために、わたしの個人歴と現代医学に対する考えも入れるようにとのことである。忸怩たる思いはあるが、恩師のことどもも記録したいという所願があったので書き加えることにした。

近代医学の祖といわれるウィリアム・オスラー氏は「医学は患者に始まり、患者と共にあり、患者と共に終わる」と言っている。遠藤さんの医療の考えと軌を一にするものであり、わが国の医療もようやく患者中心の医療に軸足を移したところである。

遠藤さんの提言も今日すでにいくつかの点で具体化されてはいるが、まだまだ足りない。本書が「遠藤周作の医療」へのさらなる進展に少しでも役立つならば望外の幸せである。