この話は、大腸がん検診でたくさんの早期の大腸癌が見つかり、『早過ぎる死』を避けることができました、という内容です。

私は開業以来、受診する患者さんに繰り返し繰り返しがん検診を勧めてきました。私の医院は消化器疾患を専門にしていますので、胃がん検診と大腸がん検診を特に力を入れて勧めています。 その甲斐があって最近は自分からがん検診を受けたいと言ってくれる人が非常に多くなりました。2年前にもまとめたことがあるのですが、今回も大腸がん検診について1年間の状況をまとめてみました。

大腸がん検診は便の中に血液が比較的多く含まれている人をピックアップし、大腸内視鏡検査をすることで大腸癌がないかどうかを判定します。人の便の中には血液が多少なりとも含まれています。 大腸癌やポリープなどがあると混じっている血液の量が多くなることから、100人の人を検査すると上位6人程度がチェックされるように調節されています。

私の医院でも独自に便潜血検査を行っていますが、今回の集計では弘前市委託大腸がん検診を受けた人を対象にしました。つまり、便潜血検査は弘前市医師会健診センターで行いました。

大腸がん検診は1年間に1,015人に行いました。そのうち108人が便潜血検査陽性、つまり便に血液が混じっていました。この108人のうち96人が大腸内視鏡検査を受けました。何とその中で10人の大腸癌が見つかったのです。 全体で見ると大腸がん検診を受けた人の約1%に大腸癌が見つかったのです。通院する患者さんの平均年齢は、一般に大腸がん検診を受ける人たちよりも高いことから、年齢が高かったことが大腸癌発見率が高くなった理由の一つです。 しかし、大腸癌がこんなに多く見つかることには驚きです。

この大腸癌の中身が重要です。10人の大腸癌の中で進行がんは1人だけでした。この患者さんは腹部超音波検査ですでに肝臓に転移がありました。2人は小さい潰瘍をつくる陥凹型早期大腸癌でした。 1人は側方発育型腫瘍と言われる丈が低くのっぺりしたタイプでした。あとの6人はポリープを切り取ったあとの検査でがんであることが分かりました。

大腸癌のうち9人が早期がんでした。つまり、大腸内視鏡で切除ができたのです。しかし、切除した9人のうち陥凹型の1人とポリープ型の2人はがんの取り残しが疑われたため、外科で開腹手術を受けました。 そのうちの1人にはがんが残っていました。

話が複雑になりましたが、『約1,000人に大腸がん検診を行い、約100人が精密検査に回され、10人にがんが見つかった。そのうち、進行がんが1人、早期がんが9人、開腹手術をしたのが3人だった。』ということです。 なお、進行がんだった患者さんは、高血圧の治療で通院していましたが、初めて大腸がん検診を受けて大腸癌であることが分かった人でした。

さて、この数字は特殊な数字でしょうか?大腸がん検診の結果に関しては2年前にニュースレター59号で紹介したことがあります。 その時は844人に大腸がん検診を行い、10人に大腸癌が見つかりました。外科で開腹手術を受けたのは4人でした。今回の集計結果と非常に似ています。 継続して大腸がん検診が行われている集団では、見つかるのは大部分が早期がんであることが分かります。 20121115B1.png つまり、大腸がん検診をしっかり続けていれば、大腸癌で『早過ぎる死』を迎えることはほとんどないということです。

いつも強調していることですが、現在は大腸内視鏡検査は苦しい検査ではありません。今年1月から10月末まで約200人の大腸内視鏡検査を行っていますが、全例が目的部位まで検査ができ、痛いと訴えた患者さんはほとんどいません。